大沼 裕 NPO法人 QOLマネジメント 理事

今回お話を伺ったのは、QOLMSの運営母体・特定非営利活動法人QOLマネジメントの代表理事を務める大沼裕さんです。 健康情報に関心を持ったきっかけやQOLMSの開発コンセプト、今後の構想などについて、じっくりとお聞きしました。

阪神大震災の経験から、健康情報の大切さを感じた。

----まず最初にQOLMSの開発を始めたきっかけなど、教えていただけますか?どんな想いから始まったのか、とても関心があります。

はい。1995年に、阪神淡路大震災がありましたよね。当時、私は学生だったんですが、被災を経験しまして、その時に「医療情報を何とかしなくては」と思ったのが、そもそものきっかけでした。

例えば、いろいろなものが火事で燃えてしまって、先生と患者さんの間に何も情報がないとか、患者さん自身が自分が受けていた治療や病状などをちゃんと説明できないとか、そういう問題がまわりにたくさんありました。このような体験から、どういう風にすれば個人個人が適切に医療者に情報を伝えられるようになるかということを、色々と考えるようになりました。

震災で感じたような問題をカバーするしくみをつくって、少しでも世の中に出せればという想いからITを学び、仕事につなげていきました。

---大震災の体験から、開発コンセプトが生まれたわけですね。ところで、QOLMSは簡単に言うとどんなサービスですか?

QOLMSの名称は、「QOL(Quality Of Life)Management Service」の頭文字をとったもの。つまり、QOLをセルフマネジメントするためのサービスです。自分の医療情報や健康情報を、生涯にわたって貯めていくことができる器のようなものと言えば、わかりやすいでしょうか。

個人個人が貯めた情報は、スマートフォンなどで自分で見ることがもちろんできます。また、本人の同意のもとに病院の先生が見やすい形で引き出して提供したり、逆に、病院の先生が、患者さんに検査結果等のデータを提供するようなかたちも可能です。

その他、地方自治体で活用する場合には、住民の方が自分で自分の体重や血圧、食事や運動などの情報を登録して、溜まったデータをもとに適切なアドバイスを戻すというようなしくみにする可能です。健康診断などの結果も、紙ではなくQOLMSを使って個々人宛にデータで届くと便利だと思いませんか?

---なるほど!スマホさえあれば、大きな災害時にも自分の健康情報がわかるし、医師と共有することもできますね。

はい。そのためにも、企業や自治体さんなどに、どんどんQOLMSを導入していただいて、社員や住民の方々など、より多くの方々に使ってもらえるようにしたいと思っています。

導入の仕方も柔軟に考えていまして、ニーズにあわせて個別にサービスを提供できるような形で展開しています。システムの基本は共通ですが、例えばフィットネスジムであればフィットネスジム用にカスタマイズして、トレーニング機器と連動して会員の運動データを登録できるようにしたり、薬局さんであればおくすり手帳をメインに使っていただくようにしたり… 。他にも、いろいろなかたちが考えられます。

健康情報のセルフマネジメントが当たり前の社会を実現したい。

QOLMSのサービスはものすごく多岐に渡るものです。多くの企業や自治体さんに導入していただいて、入り口を多くして、より多くの方が健康情報をどんどん貯めていけるようなサービスへと広げたいですね。

------そうは言っても、健康情報をセルフマネジメントするのは難しそうに感じます。誰でも習慣化できるものなのでしょうか?

おっしゃるとおり簡単ではありません。例えば体重や血圧の記録と言っても、三日坊主になりがちですよね。でも、そこを何とかしようというのがQOLMSなんです。QOLMSでは、情報の入口をできるだけ多くしてデータを貯めやすくしています。世の中には、食事や運動などの情報を管理できるアプリや、血圧や体温を記録する手帳系のアプリなどもたくさんありますよね。そういう様々なアプリとも、どんどん連携を進めています。

自分で登録した情報、アプリや健康機器からひっぱってきた情報、医療機関から提供された情報など、健康に関するありとあらゆる情報を集めて、QOLMSにまとめて貯めて行けば、一生涯のヘルスケア・データができます。そうすれば、医療を受ける時に役立てたり、生活習慣の改善アドバイスを受けたりもできます。AIでデータ分析して、病気の予防につなげるようなことも可能になっていくでしょう。

ちょっと大げさかもしれませんが、貯めた情報の活用の仕方は無限大だと思っています。様々な分野での提携も推し進めて、貯めれば貯めるほど自分にとって役立つ…、そんなサービスとしてQOLMSを発展させていきたいと思っています。

---自分の健康情報を自分で管理するのは当たり前。高齢化が進む日本では、そうなっていく必要がありそうですね。

そうなんです。実は現在、総務省や厚生労働省の方でも、医療情報を患者に返すという取り組みを推進しています。膨大に膨らみ続ける医療費の抑制のためにも、個人が自らの健康情報を管理して、病気の予防や健康な生活習慣を身に着けることが大切で、いわば、日本の国を挙げて推進すべき課題なんですね。

我々もそういう行政のサービスとマッチするようなかたちで、プロジェクトを進めていければと考えています。国の方針とブレないようにということはもちろんですが、国に対してアドバイスや助言が出来るようなサービスになるように 頑張っていきたいですね。

---最後に、生活者の方へのメッセージが何かありましたら、ぜひお願いします。

自分に折り合いを付けて日常生活を続けてゆくために、自身をマネジメントするということが、今後、とても重要になってくると思います。でも、現実はどうかというと、健康情報に関心を持って積極的に自分で管理して行こうという方は、日本全体の人口で1%いるかどうか。大半の人は諦めていて、自身に健康問題が降りかかってからしか動けない状況です。

高齢化が進んでいる今、「健康寿命」を長くするためにも、セルフマネジメントしていくことを、より多くの人にもっともっと考えて欲しいですね。いくら長生きしても、思い通りの活動ができなくなったり、寝た切りになってしまったのでは辛くなります。生涯を満足ゆく人生を送るためにも、自分の健康情報は自分で管理する。それが当たり前の社会にしていきたいですね。

大沼 裕
NPO法人 QOLマネジメント 理事