比嘉 靖 医療法人奨進会 東部クリニック 院長

医師会主導で、PHRへの模索、取組が進む沖縄県。 そのけん引役のひとりであり、医師会理事として、またクリニックの院長として精力的に活動されている比嘉靖先生に、沖縄の現状やこれからのビジョンなどについてお聞きしました。

まずは、患者さんに医療情報を出せる環境づくりから

---最初に、沖縄県の医療情報に関する現状から教えてください。

はい。沖縄では、全県域で医療機関同士の情報共有の取り組みが進んでおりまして、医療施設を結ぶ「おきなわ津梁ネットワーク」で構築したシステムを沖縄県医師会として運営しています。そんな中で、診療をして患者さんとやり取りしていますと、ご自分の情報をもらいたいという方がいらっしゃいまして。CD-ROM でデータをくださいとか、カルテのコピーを下さいとか、そういった要望を受けるんですね。

でも、なかなか全てお応えできない場合もありますし、そもそも僕らが出せるCD-ROM というのはご家庭のDVDプレイヤーなどでは見れないものになっているなど、運用面でも難しいところがありました。

私自身には、患者さんにもデータを還元してあげたいという想いがずっとあって、取り組みを進めていきたいな…と。患者さんがそれをどう使うかなど、その先はまたいろんな選択肢があると思うんですけど、とりあえず僕らから情報を出せる環境づくりをしたいな…と思っています。

---住民の方の反応はいかがですか?

昨年度から国民健康保険を利用される患者さんにインセンティブを付け始めているんですけども、必ずしも大成功というわけにはいってないですね。反省する点も多々あって、一つは告知が足りなかったかなということ。検診を受けられる方を中心にアピールしたのですが、本当は逆で、むしろ検診に来ない方々にどうアピールするのかを、よく練って行うべきだったかなと思っています。

スマホやPCを使った手続きが必要だったわけですけど、健診に来る層の方はこういう面には疎い方が多く、逆に健診に来られない方の方がスマホやPCに詳しい方が多いわけです。きちんと分けてアピールできれば、もっと効果を出せたんじゃないかと、今反省しているところです。

沖縄県の老若男女に、PHRを根付かせたい。

ポスターや新聞で告知されていても全然ピンと来ていなかった方も、ここに診察に来られた時に、おきなわ津梁ネットワークの利用者カードは持っています。ここでも特定健診を行なっておりますので、その時にお声掛けするなどして、取り組みについて詳しく知っていただくとかなり喜んでいただけます。沖縄では、インセンティブとかポイント制に結構敏感と言いますか、熱心な方が多いので、そういった面では、潜在的な需要を引っ張り出すポテンシャルはあるんだろうなと思っています。

---PHRをもっと医療に活用していくためには、何が必要でしょうか??

僕らは、患者さんと一対一でお話をしたり、看護師さんが一生懸命聞き出した情報をもとに、いろいろなことを判断しなきゃいけないわけですが、その情報が正確で大量にあった方が、判断を間違わなくなります。

質の高い情報ができるだけ多くあればいいと思うんですが、その供給源として、QOLMSには非常に期待しているところがあります。生体活動万歩計とか血圧計のデータを入れておいてもらったり、ゆくゆくは食事内容の写真なども登録してもらえれば、例えばAIがカロリーを計算したり、塩分を想定することなどもできます。

僕らの医師会の方で検討していることとして、赤ちゃんや子供の時の情報や、予防接種の履歴など、病院のデータだけではなかなか集められない情報を、お母さんの力を借りて集めたいということがあります。スマホのアプリは、今の若いお母さん方にはしっかり定着していると思うので、母子手帳代わりに入れていただけたら、医療機関の有効活用に繋がるんじゃないかと。そういういろんな情報をもらうツールとして、QOLMSにも非常に期待しています。

---この先、沖縄県の医療は何をめざしていきますか

沖縄県では、若い人の健康が非常に問題になっているんですよ。40歳代の脳卒中の発生率、つまり脳出血が起きる割合は、日本一なんですね。さらに、65歳未満の死亡率でもかなり惨憺たる結果で…。

それらは、例えば運動・食事など、いろいろなことが関係して出てきた結果だと思うんですけど、それらを改善して結果を出すということをいちばんの目的として、今考えていますね。

ガンなどは自然に発生してしまいますので、努力で発生率を抑えるのは難しいでしょうが、生活習慣病とか脳卒中とか心筋梗塞は、僕らの努力が多少は役に立つんじゃないかと思っています。PHRやEHRを有効利用して、そういった面で、ぜひ効果を出していきたいと思っています。

比嘉 靖
医療法人奨進会 東部クリニック 院長
http://www.tobu-clinic.com
おきなわ津梁ネットワーク(沖縄県医師会運営)
http://www.shinryo.okinawa.med.or.jp